サラリーマンフリック(白黒とカラー&小話)
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| 「なに迷ってんだ?」 「え?」 耳元で見知らぬ男の声がした。 私は声の聞こえた側を振り向く。至近距離に男の顔があった。 「移転届け?」 「え?あ…?はあ」 私の肩越しに男は私の手元の紙を覗き込んでいた。突然のことに私は面くらった。正直「なんだこいつ…」と思ってしまった。私の眉間にしわが寄る。私の表情が警戒心を顕にしていることに気づいているのかいないのか…。 男はにこやかにな表情のまま私に話しかけてきた。 「この市役所わかりづらいからなあ…。提出はあそこの端のカウンターだ」 「あ、ありがとう…ございます」 「いいって」 彼は子供のような表情でにっこりと笑う。笑うと幼くなるんだ…どきりと心が鳴る。 なんだってのよ…。 彼の表情が無防備すぎるのだ。思わず私は毒気を抜かれた上に不意打ちにあってしまった。 新生活第一日目に市役所で迷うなんて最悪だと思っていたのに…私って現金かもしれない。ツいてるっ!と心の中でガッツポーズまでとってしまった。 「あ、あのっ!」 「ん?」 このまま別れるのが惜しく、私は後先考えもせずに彼を引き止めてしまっていた。不思議な顔をしながらも彼は私の言葉を待ち立ち止まってくれた。 「えっと、あの…」 自分で引き止めておいて言葉が出てこない。なんだか変なことを言ってしまいそうで。落ち着け、落ち着けと心の中で唱えるも、効果はなかった。 不思議な顔をしていた彼はくすっと笑い、私に手を差し伸べてきた。その手に誘われて私の手が彼の手に重なる。 「ウォーリアーヴィレッチ建設のフリックだ」 え?思わず見開いた目をぱちくり。 「ウォーリアー…って…ええっ!!!」 「ん?」 「あ、あたし、来週からその建設会社で働くことになっているオデッサといいます!」 「お?そりゃ奇遇だなあ。会計とか事務とかか?」 「違います!これでも私は設計士なんです!」 男社会ってこれだから…とぶつぶつ言っている私をきょとんとした顔で見ているフリック。その視線にはっとして私は我に返った。 「い、いえ、あの、ほほほ…」 よりによってなんで彼相手に憤りを爆発出させなきゃならないのか…私はやっぱり最悪の日だとここどの中で盛大なため息を吐いた。 「いや、こっちも悪かったよ。もしかして、君、今度社に来る切れ者設計士か?」 「は?キレ者?」 「なんか上司とごたごたがあって、やめてきたとか。社の不正を暴き、楯突いた大物だって」 確かにそんなことがあった…多分そのうわさの当事者は私だ。上司のセクハラに耐えられなくて、つい仕返しとして、建築費用の水増しの件とか、不良建築のもみ隠しの件とか…全部一人で調べて詳細を100枚のレポートにまとめておまけにパワーポイントまで用意した。新しい取締役には名誉会長が現役復帰、会長と取締役を一時的に兼任。重役等にのっとられかけていた会社も再び現会長の手に返ってきた。支社に武者修行に出ていた会長の息子が重役ポストに就き、若い優秀な人材が同じく重役ポスト、またはその下についた。そして今度の私の勤め先が会長の息子がいた支社。この支社を盛り立てて欲しいといわれたのだが…体よく飛ばされたってのが正しいのかもしれない。人のよさそうな顔をして、現会長も侮れない人間だったわけだ。でもまあ、元重役たちから甘い汁を吸っていたやつらからの視線も痛いのでこれ幸いと私はその転勤に応じた。 別に職を失うわけでもないし、キャリアにこだわるわけでもないので今度はのんびりと恋を探しながら女の幸せを満喫するつもりでいたのだが…、こんなうわさが流れているんじゃ、誰も近づいてはくれないかもしれない。私は心の中でがっくりと肩を落とした。 「キレ者とか大物とか別として、確かにちょっとそんなことしたかなあ?って…ぐらいです。ハイ…」 「やっぱり噂の君かっ!俺、その話すごく感動したんだぜ?君、俺より若いんだろ?すごいなあ」 「そ、そう?」 「ま、いろいろ敵は多いかもしれんが、俺はあんたの味方だからな?助けが要るときは頼ってくれ。力になる。これ、俺の名刺だ」 名刺をさしだされ、私も自分の名刺を渡そうとバッグを探るが、そういえばまだ新しい名刺ができていなかったことを思い出した。 「え、あ…ごめん。いま新しい名刺まだ作ってなくて……」 「いいって、どうせ会社で会えるし。もしなんかあったらたずねてきてもかまわないから」 にこっとまた彼はあの無邪気な笑みを浮かべ、「じゃあな」とその場を後にした。私はその笑みにくらりとしながら、心の中でよっしゃー!とガッツポーズをしていた。 そしてしばらくそのまま彼の後姿の消えた先をぼーっと眺めていたが、 「邪魔よっ」 というおばさんの声で私のほんの僅かな間の至福の時は終わった。 今日という一日にホント感謝したい気分だった。私は余韻も覚めやらぬままぼーっと市役所を出て、引越しの荷物の片付かないアパートに帰り、始終にやーっとしていた。結局届けを忘れたことに気づいたのは夕食後の歯磨きが終わる頃だった。 しかし、この頃のにはまだまだ知らないことが多すぎた。彼が不幸を呼ぶ男のジンクスを持っている事とか、私の恋のライバルが…男である事とか。 −続(かない)− |
間違いだらけの建設関係会社の描写。参考サラリーマン金○郎TV版。
笑って許してw
白黒の絵は、友人が私の絵を塗ってくれると言ってくれたのでこのままアップ。
でも、後で私も自分で色塗りしちゃった。
友人ひるさ芽が色塗りした絵は彼女のHPにあります。
2003/9/20
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